「たそがれたかこ」(入江喜和著)の最終巻が発売されました。
入江先生といえば思い浮かぶのが「のんちゃんのり弁」や「おかめ日和
」。主人公の人生を淡々と掘り下げつつ周囲の人間ドラマも描くのが得意という印象を持っています。
入江先生のマンガに登場する主人公は、どちらかというしなやかな強さとたくましさを持ってる女性というイメージがありますが、たそがれたかこの主人公「たかこさん」は正反対。
ものすごく…リアルというか
自分にとって共感できる部分がとても多いキャラクターで、1話を試し読みした時点で速攻購入を決意しました。
たそがれたかこ 自分の人生をもう一度やり直すということ
「たそがれたかこ」という表題から感じるように、主人公のたかこさんは「黄昏れ」の渦中にいます。
まさに斜陽、傾き、太陽は沈むのみ…という黄昏時のせつなさがこの漫画を、主人公のたかこさんのすべてを言い表しています。
たかこさんは45歳、バツイチ。現在は年老いた母(そしてウマはあわない)と同居中。人とフランクに付き合える性格でもなく、職場でも打ち解けていません。(6年務めてるのに敬語で話しかけられるとか)
大きな事件もなく淡々と過ぎていく日常の中、「夜にやられる」たかこさん。
もうこの「夜にやられる」のが分かりすぎて…。
ただとにかく「不安」。何もかも忘れて夢中になれるようなものもないし、これからどうなるんだろうという底なしの不安なわけですよ。
若いころはやりたいことや夢もあり見えてなかった現実が、歳をとったことで否応にも目についてしまう。空っぽの自分を夜になると突きつけられてしまうわけですよ。
うん!病んでる!
と言ってしまえばそれまでですが、たかこさんのいう「夜にやられる」は共感しまくりの言葉でした。
そんなたかこさんが主人公のこの漫画はちょっと特殊だと思います。アマゾンのレビューにもありましたが、地味っちゃ地味。決して派手な物語ではありません。
45歳の冴えないオバサンの日常が綴られるだけの漫画というと身も蓋もありませんが。入江先生のマンガの凄いとことは、ああこういう人、実際にいそうという描写がすごくうまいところ。
日本のどこかで同じような人生を送ってる、たかこさんみたいな人が実際にいるんなじゃないかという親近感を感じます。
「たそがれたかこ」も実際に起こりそうな出来事が結構淡々と綴られるだけ(たまに爆発はするけど)。異世界に転生するわけでもなし、たかこさんが一念発起して絶世の美魔女に変身するわけでもない。
しかしたかこさんが謎のイケおじ美馬さん、そして運命のバンド「ナスティインコ」に出会うことで彼女の内面に変化が訪れました。
髪を染め、今まで反抗してこなかった母親にも大声で怒鳴ったり。まさに45歳にして反抗期。
小さな変化が訪れたものの、それでもたかこさんの人生が大きく一変することはない。あくまで「45歳のオバサン」としての人生からは逸脱しません。
娘一花の拒食症や、新しい恋など、右往左往して大きな波に飲み込まれることがありますが、たかこさんはいろいろ不器用なたかこさんのままでした。
ここらへんホントリアルですよね。人間そんなに簡単に別人にはなれない。
漫画を読む方からすれば、やっぱり漫画ならではのフィクションを楽しみたいものです。なのでこの漫画は退屈なものに映るかもしれません。
ただ、たかこさんに起きる嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと全てが胸に突き刺さる。同じように人と馴染めず、「夜にやられる」人にとっては、もがきながらもたかこさんが前に進む姿を読みたくなるのです。
たかこさんは最終巻では片思いの相手だった中学生、オーミくんに失恋します。この失恋が手痛い。オーミ君のリアクションが読んでる側にとってもきつすぎる。ものすごくリアルだよね。(オーミ君のその後が全く分からないところもまたリアル)
45歳のオバサンが中学生に片思い、というのも読者からすると、ちょっと「え?」ってなるかもしれません。
ただ、たかこさんはオーミ君と同じくらいの少女になって人生のやりなおしをしてるのかもなぁ、と読んでて思いました。
たかこさんは結婚(のちに離婚)をして子供もいますが、たかこさんの人生を読んでいると、誰かを本気で好きになって恋愛をしたことがないように感じます。
誰かにほのかな好意を抱くことはあっても、うまくいきそうにないと予防線を張って本気にはならないようにしているというか。
そんなたかこさんが初めて恋をした。いい歳をした女性が中学生に恋というとドン引きするかもしれませんが。
自分自身が歳をとってから思うのが、年相応に年相応の経験をすることってすごく大事なことだと痛感するようになりました。
友達と遊ぶ、喧嘩する、恋をして失恋をする、といったことを学生時代に経験できないでいると、大人になってからすごく自分のコンプレックスになるというか。
たかこさんは幼いころにできなかった経験をやっと今できているんだろうな。
恋も勿論のこと、イメチェンや好きなバンドのギターを買って練習したりと、まさに思春期をもう一度送ってるんだな、と。
また登校拒否になってしまった一花に向き合うことで、学生時代の生きにくかった自分に向き合うことにもなりました。
思春期は自立のために必要な時期ともいいます。
決してスマートではなかった、たかこさんの思春期2回目。バンドにハマったり若者に恋したりと他人には滑稽にうつるかもしれない。
それでも彼女の晴れ晴れとした笑顔を見ると「これでいいのだ」、と心から思います。
「これでいいのだ~」と半ばやけくそにもなって笑い飛ばせるようになったたかこさん。第2の思春期を経て、彼女の中の何かか大きく変わったように感じます。
「たそがれたかこ」は一気読みがお勧めです。実は連載中は3巻くらいで一度読むのを脱落しました…。先が見えないのがしんどくて。
しかし最終巻が発売したことで続きを読むとこりゃもう我慢できないと一気に読破してしまいました…。面白かった。
近所に「美馬」が欲しい。そしてマキッペのような自由奔放の美女(ちょいビッチ)を遠くから眺めたい。
たそがれたかこは登場するゴハンも美味しそうなのもポイント。毎度おなじみマンガ食堂さんの再現料理、ちょうちょううまそうです。
「たそがれたかこ」は8/24まで1巻2巻が無料で読めるキャンペーン中です。気になってる方は是非!