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さんさん録 「じいさん」が主人公の何でもない素敵な毎日を描く漫画です

映画「この世界の片隅に」のDVDが9月に発売になるそうですね。

映画「この世界の片隅に」を見てきました。ネタバレ感想
既に上映中の映画「この世界の片隅に」。上映が始まってからずっと見たかった映画をやっと見れました。 大雪やら体調不良なんかで全く見に行け...

この映画、公開されてかなりの月日が経っているのに、いまだロングラン上映中というのが凄い。

映画ばかりがクローズアップされていますが、映画の原作のマンガもとても素晴らしい。すずさんやすずさんの周囲の人について、映画だけでは描かれなかった部分もかなり多いので、映画を見た人は漫画も必ず読んでほしいです。

さて、「この世界の片隅に」の著者であるこうの史代先生。

話題になるのが、「この世界に~」や「夕凪の街 桜の国」のように戦争を舞台、下敷きにしている作品が多いせいか戦争ものの作家さんというイメージが定着しています。

しかし発表されている作品の殆どは戦争ものではなく、なんでもない日常を描いたものが多いです。

こうの先生は数多く作品があるのですが、個人的に「ベストオブこうの史代」である「さんさん録」についてご紹介したいと思います。

作品についてうだうだ語っているので、物語の核心も書いています。ネタバレありです。ご注意。

「さんさん録」についてだらだら感想を語りたい ネタバレあり

「さんさん録」とは

「さんさん録」はけっこうなお歳であろう参平さんが主人公。そうです。この漫画の主人公は「じいさん」。

表紙に佇む参平さんを見てもらえばわかりますが、まごうことなき「じいさん」です。

参平さんは、突如交通事故で奥さんを亡くし、息子夫婦の元で同居中です。できた息子の嫁は暖かく接してくれるものの、もともと社交的な性格でもない参平さんは息子一家との新生活でいろいろ気を遣い中。

そんな時、参平さんは妻の鶴子さんが遺してくれた分厚いノート「奥田家の記録」を発見しました。そのノートには生活に関することを始め、家族に関してのたくさんのことが綴られています。息子の詩郎、息子の嫁の礼花さん、孫の乃菜、そして参平さんのページが作ってありました。

そして参平さんのページには「さんさん録」という付箋が貼ってありました。

鶴子さんは夫である参平さんのことを「参さん」と呼んでいたのです。

参平さんこと参さんは、この「奥田家の記録」に支えられ、主夫として第二の生活をスタートします。

男やもめのハートフルストーリー

さんさん録の帯には「男やもめで専業主婦、参さんのハートフルストーリー」と銘打ってあります。この漫画、ハートフルというにはちょっと複雑で、作者ならではの毒の利かせ方がちょくちょくあって面白い。

乃菜が参さんに「ぼけかけてるって本当か?」と洒落にならないことを聞いたり、結構ひどい。

またその乃菜の見た目が子供らしくない造形をしてらっしゃる。祖父である参さんにそっくりな顔立ち。

(子供らしく可愛らしく描かれてはいない乃菜ですが、大人になった姿が(これは参さんの想像ですが)子供の頃の面影を保ちながらきちんと美人になっていたので、「おお」となりました。こうの先生の描く女性好きだわ)

「さんさん録」は参さんを中心に奥田家の日常が淡々と描かれています。何か大きな事件が起きるわけでもない、異世界に転生するわけでもない、ごく平凡なごく普通の家族の1ページという感じ。

しかし、流石は日常ものを描かせたら日本で一,二を争う漫画家(当社比)と私が考えているこうの史代先生。なにげない日常でも飽きさせず、徐々に状況が変化していく奥田家の日常を読者に魅せてくれます。

また登場するキャラクターがいい。参さんは不器用だし人相もあまりいい人間ではない、何故こんな人が魅力的に見えるんだろうと自分も思う(笑)

結構お茶目なところがあったり、新たな恋に翻弄されたりと、読み進めていくほど参さんが好きになってしまう。そして共に生活する奥田家の面々にも愛着が湧いてきます。

また参さんと乃菜のコンビがいい。ヴェルタースオリジナルのようなおじいさんでは決してない参さんですが、いいじいさんだよな。

乃菜も、両親が離婚の危機の時、「おとう」「おかあ」「じじい」の誰に着いていくか花占いをしたら

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「さんさん録」よりコマ引用

またじじいに!!(ボエアーーー)と泣き喚いているけど、なんだかんだ言って参さんのことを好きだし。二人のやりとりが本当に面白い。

参さんの新しい恋についても忘れてはなりません。連れ合いを亡くした参さんの前に現れたのは、仙川イオリ。

息子の詩郎に気があったそぶりを見せる仙川さんですが、徐々に参さんと接近していきます。もうこの辺のつかず離れずのラブストーリーが…もうたまらん。この漫画は恋愛漫画としてもすごく最高です。

またこの仙川さんがエロい。

こうの作品に登場する女性はもれなくすごくセクシーというが内側から色気があふれてるのですが(この世界のすずさんとか、長い道の道さんとか…)、仙川さんは特にエロい

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さんさん録よりコマ引用

新しい恋があっても、参さんが決して鶴子さんのことを忘れていないのもいい。そしてそれをわかっている仙川さんも。

最後の「こんな時までにこにこ見てるやつがあるか」が全てを物語っている気がします。

最後に

「この世でわたしの愛したすべてが、どうかあなたに力を貸してくれますように」

そんな参さんへの思いが込められた鶴子さんの「奥田家の記録」。

息子である詩郎のページには、詩郎の取った0点のテスト用紙が貼ってありました。「そうそう我が家の宝物を貼っておこう」の言葉と共に。

それは小学生の頃のつるかめ算のテストでした。「亀は足を出したりひっこめたりするから」「ぜんぶかめ」と回答欄に書きテストで見事に0点を取ってきたもの。

飽きれる参さんと鶴子さんですが、数日後、参さんが「出ても引っこんでも足の数は変わらねーんだよ!」と詩郎に突然ゲンコツ。詩郎は「いきなりいつの話だよ!?」と返します。

当時のできことが書き綴られ、そこに続くのは

「あの時のふたりを思い出せば 私はたぶん死の間際にも笑っていられる」

この漫画で私が一番好きな、心に残っている言葉です。

そんな思い出があることが一番幸せなことなんじゃないか、と心から思えた鶴子さんの言葉。鶴子さんが事故で突然逝ってしまったのは悲しいことだけど、何か少しでも彼女に救いがあって欲しい。

連れ合いの鶴子さんを亡くし、新しい生活をスタートさせた参さん。彼の何気ない日々を描いた「さんさん録」ですが、そこにいるのは参さん、詩郎達奥田家の面々だけでなく、鶴子さんもそこに寄り添って見守っている物語なんだと思います。

何度も読み返している「さんさん録」ですが、いつも読み終わる時はひたすらさびしい。

参さん、奥田家のみんな、そして新しく増える家族のこれからを読みたい、そう思える漫画でした。

さんさん録 1

さんさん録 1

さんさん録 1

[著]こうの史代

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